当初から分かっていたことなのに

科学界の一大スキャンダルとして取りざたされてきた「STAP細胞」をめぐる問題が、理化学研究所の調査委員会によって、ようやく結論が下された。

STAP細胞から作ったとされた細胞や組織は、すべてES細胞の混入に由来する、あるいはそれで説明できる。STAP論文はほぼすべて否定された」などとする報告書が昨年末、発表された。

ES細胞の混入は当初から取りざたされていたが、検証、検証と再現実験に大きくベクトルが傾きながら、とうとう昨年末まで検証実験が行われた結果、STAP細胞の存在が事実上否定され、今春まで予定されていた検証実験は打ち切られた。何のことはない、実験に使った主要なマウスの遺伝子を解析した結果、すべてにES細胞由来の塩基配列がみられたというものだ。

今後の焦点は論文不正の真相解明に移行するが、理研が小保方さんの退職を認めたことで、影響がでる恐れもある。論文の共著者は小保方さんを含めて14人。国内外の研究機関にまたがっており、こちらも検証は容易ではなさそうだとの見方が大勢だ。

小保方さんは、「与えられた環境の中では魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切り、このような結果にとどまってしまったことに大変困惑しております。責任を痛感しておりー」などと理研を通じて退職願提出に当たってのコメントを出した。

実験環境が十分ではなく「レシピ」や「コツ」を出し切れずに再現できなかったが、STAP細胞はいまだに存在を信じて疑わないという、どうもそんな口調だ。昨年4月の会見では200回以上作製に成功したと主張していたのだが結局、小保方さん自身でもSTAP細胞は再現することはできなかった。それでもなおかつ「STAP細胞はあります」というわけだ。

今回の報告書では新たに「ねつ造」が2件認定されている。繰り返すが、STAP論文はほぼすべて否定されたのだ。結果が出たにもかかわらず、その存在を疑わない小保方さんはどういう「情緒」のヒトなのだろう。確かにここで敗北を認めてしまうとアイデンティティを引き裂かれてしまうのはよく分かる。が、これだけ外堀を埋められてしまってはもはやなすすべはないのではないか。退職願はそういう逃げの一手の意味でもとらえておきたい。

小保方さんは博士論文でも多くの疑義が出されている。1年間の猶予つきで博論の再提出を迫られている。100ページの博論のうち、20ページがコピペという常識では考えられないことを行い、データの改ざん、ねつ造を指摘されている。そもそもこんな博論を通す方も通す方だ。杜撰な早大の審査体制もなんとも情けない。

よく「D論は足の裏にひっついたご飯粒だ」といわれる。ちまたでは「取ったところで食えない」と諧謔をこめて言われているのだが、小保方さんの場合はとても食えた代物ではなかった。

まあ、冗談はさておき、STAP細胞と称せられたものはすべてES細胞由来だった。では、このES細胞は、いつ、どこで、だれが、どうして混入したものなのか? 単独で行ったのか、組織的に行われたのか。問題解決のキーマンは自殺。小保方さんは理研を昨年末に退職された。調査委は関係者に聞き取りを行ったが当然らちがあかない。

池内了総合研究大学院大学名誉教授は、「ES細胞の混入は予想できたこと。理研も気付いていた可能性があるが、早い段階で出せば混乱が大きくなると恐れたのではないか」と的確で分かりやすいコメントを述べている。

今後もきっとこんな調子で、多くの問題を残しながらも、だれも責任らしい責任を取らないで、波打ち際の砂山のように、いつしかSTAP問題は消えていくのでしょうね。

*引用文献 2014年12月20日朝日新聞、12月26日付同夕刊