世紀の大発見!

  先月末、新たな「万能細胞」のニュースが新聞各紙などのメディアをにぎわせた。マウスの体の細胞を弱酸性の液体で刺激すると初期化が起き、どんな細胞にもなれる万能細胞に変わる。小保方晴子(30)・研究ユニットリーダーを中心とする理化学研究所など日米研究グループが nature に論文2本を発表した。

  新たな万能細胞はSTAP(Stimulus-Triggered Aquisition of Pluripotency=刺激惹起性多能性獲得)細胞と名付けられ、細胞が刺激を受けて受精卵に近い状態に逆戻りする性質(初期化)を初めて証明した。動物の体は元は全ての種類の細胞になる能力を持った1個の受精卵に始まるが、一度特定の細胞に変わると元には戻らないとされていた。今回の発見はそうした生物学の常識を覆す。

  2014年1月29日にnature 505 に掲載された論文は、「刺激によって引き起こされた多能性体細胞への転換」「多能性を備えたリプログラムされた細胞の双方向性の発展的可能性」の2本。STAP細胞の作製方法とその双方向性などを述べたもので、なぜ初期化するのかというメカニズムは解明されていないが、ES細胞、iPS細胞にはない胎盤組織と全ての体細胞分化する万能性が備わっているという。今回はマウスの細胞での成果だが、近くヒトの細胞での STAP 細胞の研究成果が米ハーバード大などの研究チームが発表する予定だ。

  具体的には、マウスのリンパ球を弱い酸性(ph5・7)の溶液に30分間入れた後、別の培養液に写すと2日以内にリンパ球が本来の性質を失った。細胞の数は7日目に約5分の1に減ったが、残った細胞のうち、3〜5割が万能細胞に特有の性質を示した。これを別のマウスの受精卵に移植すると、体のあらゆる部分にSTAP細胞からできた体細胞が混じったキメラマウスが生まれ、STAP 細胞がさまざまな細胞に変化することが証明された。今回の方法は遺伝子の導入(iPS 細胞)も核移植(ES 細胞)も必要としない。

  多能性の判定を手掛けた共同研究者の若山照彦・山梨大生命環境学部教授は、「刺激だけで多能性を獲得するのは動物ではありえないというのが当時の常識。出来るはずがないと思った。判定の手法は、緑色に光るマウスが生まれてくれば多能性があるというもの。最初はまったく光らなかった。一度失敗を伝えると、たいていの研究者は引き下がる。でも小保方さんは違った。だめだったと伝えると、更に膨大な量の実験をして失敗の原因と次の作戦を考え、次は絶対いけるのでお願いします、と別の方法で作った細胞をすぐ持ってきた。普通とは違う熱意を感じた」と当時を振り返るが、(情熱はあっても)できっこないと思い続けていたという。「2011年末ごろ、緑色に光るマウスの1匹目が生まれた時は、小保方さんは世紀の大発見だとすごく喜んでいたが、私はそれでも信じられず、実験をミスしたせいでぬか喜びさせてしまったかもと心配だった」と最後まで信じられなかったという。

  今後はヒト細胞での作製が課題。ヒトの細胞で STAP 細胞が作製されれば再生医療創薬などに応用できるほか、初期化のメカニズムの解明によって老化やがん、免疫などの研究に役立つとされている。2論文と共に特許出願も済ませており、熾烈な研究競争にさらに拍車がかかる。

  一方、nature に掲載された2論文に対して今日2月15日、クレームがつけられた。「論文の画像データの一部が過去の論文の画像を流用した可能性がある」「STAP 細胞から作ったとされる胎盤の写真が使いまわされている」などというもの。理研は外部の専門家を含めて調査に入ったという。真偽のほどは現時点でははかりかねるが、これらの指摘が瑣末なことであってほしい。

 ※ 本文作成に当たり、朝日・毎日・読売各紙の記事を引用させていただきました。