秋の里山を散策

 三連休中日の22日朝、宇都宮市長岡町の「うつのみや文化の森」に出かけた。午前中は穏やかな快晴に恵まれ、のんびりと散策路を歩きながらキノコ類や野草など、秋の里山のひとコマを写真に収めた。

 宇都宮の中心部からやや北の文化の森は26haの丘陵地。コナラやヤマザクラヒサカキ、リョウブなどの落葉広葉樹とスギ、ヒノキなどの針葉樹(人工林)が混交するいわゆる里山。周辺は市街地とともに田んぼに囲まれている。

 併設する宇都宮美術館の駐車場に車を置いて散策路を歩き始めると、コナラの林の中から「ビィービィービィー」とやや金属音的なヤマガラの鳴き声が響いてきた。頭上5メートルぐらいのコナラの枝につかまり、黒とハブ色の頭部と茶褐色の背と腹の特徴的な姿を見ることができた。遠くの方からは「ツッピィーツッピィーカラカラカラ」と鳴くシジュウカラや「チィーチィー」と甲高いメジロの鳴き声も聞こえてきた。しばらくするとエナガの小群が「ジィジィジィ」と鳴き交わしながら森の中を遊動していった。

 散策路の両側には、そこかしこに秋の野草類が可憐な花を咲かせていた。やや日蔭の倒木などあちこちにさまざまなキノコ類がみられた。地味な茶褐色から、薄茶、灰色、白…、はては真っ赤な傘を広げたものまで、バラエティー豊かでちょっと不思議な光景に見入った。中でも、傘が色鮮やかな赤身のタマゴタケ(テングタケ科)。表面は橙赤色で周縁部に条線があり、柄は橙黄色で膜質のつばを付け、根元には白いつぼがある。これで食用というから驚いた。色鮮やかなキノコは毒キノコというイメージが強いせいか、あまり食べる人はいないようだ。毒キノコのベニテングタケと思う人が多いからなのかもしれない。

 もうひとつ秋の味覚と言えばクリ。散策路にはちょっと小ぶりのヤマグリの実やいががあちこちに落ちていた。その小さな実を拾い集めると10分ほどで50粒ぐらい収穫できた。家に持ち帰ってゆでておいしく頂いた。けっこうほくほくして美味しかった。

 小動物の痕跡はほとんど見つけることができなかった。が、薄暗い森の中にはかなりスリムなドラゴンフライや怪しい色調のバタフライなどが飛び交っていた。ゆく夏を惜しむかのように鳴き続けるツクツクボウシがかまびすしかった。鬱蒼とした森を抜け出ると明るい日差しの中でアキアカネが尾を立てて警戒(威嚇?)している様子を捉える事ができた。晩秋へと向かいつつある季節を体感した。

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 【追補】 10月25日夜、何となくYou Tubeを見ていたら1980年ごろ放映された日本テレビの番組「椎名誠と怪しい探検隊」を偶然に発見した! 「へえっ〜、こんな番組があったんだぁ〜」とさっそく観ていたらキノコ採りの場面が出てきた。さらに毒キノコのベニテングタケを食べる場面。場所は長野県北御牧村のとある民家の縁側。地元ではベニテングタケを煮付け・粕漬け・塩漬けなどの保存食にして食べているという。探検隊の面々が、大皿に盛られたベニテングタケの煮付けや粕漬けに、恐る恐る箸を伸ばしておっかなびっくりといった面持ちで食していた。「えぇ〜、毒キノコって食べられるのかぁ〜っ」。私はこの年まで、まさか毒キノコを食べるなんてことはとても想像さえできなかった。このシーンにはまったくびっくりした。そして凡人の想像力の無さを今更ながら痛感させられた。世の中、まだまだ知らない事がたくさんあるねぇ。

 そういえば、フグだって毒の部分を取り除いて食べるし、栃の実なんかも昔は渋抜きをして食べていた。雑食性のヒトは古来より食へのあくなき探求を続けてきたのだ。毒だからダメっていうのじゃなくって、この毒をいかに無毒化するかを考えて試行錯誤するのがヒトなんですねぇ〜。逆転の発想! これとても重要ですね。でもやはり毒物は怖いのが人情。まあこの発想だけ大いに活用したい。

 北御牧村の人たちは地元の白樺林や松林で採取したベニテングタケを塩水に漬けて毒抜きをしてから食べているようだ。「(キノコの中で)一番美味しい」という。しかし、採ってすぐ食べると当たる。腰に来る? という。こうした地域の特異な食文化を丹念にフィールドワークしてまとめあげると面白い本ができるのではないかと思う。たぶんこの手の本は幾冊かは出ているのだろうが、先行事例を参考にしながら独自の視点を加味すれば生態民俗学の一分野として興味深い文献になるような気がする。だれか「毒キノコの民俗学」というような題名で一冊書いてくれることを期待したい。

 ウィキペディアなどによると、ベニテングタケの毒はイボテン酸やムッシモールという物質。取ってすく食べると嘔吐・下痢・幻覚症状などを起こす。茹でて濃いめの食塩水に漬けて毒抜きすると食べられるようになるというが、詳細は不明。「ベニテングタケを是非食してみたい」という方は文献やネットなどで十分に毒の抜き方を調べるなりしてから試食してほしい。日本のモノでは死に至ることはないとされてはいるが、これだけはあくまでも「自己責任」で行うように。