koujinのつぶやき その7

大寒の日の前日、例によって友人と車で新古書店ツアーに出かけた。行く先は群馬県の太田・伊勢崎・高崎の3市のブック○○と老舗古書店。都合10ヵ所ぐらい回って、20冊ほどをゲット。またまた邂逅の1冊を手にすることができた。群馬県古書店が高崎・前橋などを中心に点在していて、時々古書展などを開いて各古書肆とも奮闘しているようだ。新古書店も時々、掘り出し物などがあったりする。今回もそんな楽しさが程よく味わえた。

 東北自動車道宇都宮インターから上り車線に入り、東京方面を目指す。途中、佐野市あたりで遥か南西方向に新雪を頂いた富士山(3776m)の秀麗な姿が見えた(写真上)。佐野インターで下りて、国道50号を前橋方面に向かう。またしても途中の佐野市から足利市下渋垂町の区間で前方の北西方向に真っ白な浅間山(2568m)、南西方向には富士山の雄姿が車窓から望まれた。このあたりは田園地帯だが、民家が疎らに立っていた。まったくすばらしい「借景」の地だ。

 さらに進むと北に赤城連山、西には榛名山(1449m)なども姿を現し、大パノラマ景観を展開し始めた。好天にも恵まれて快適なドライブを楽しんだ。

 そうこうするうちに、太田のアミューズメント施設内にある新古書店に到着した。ここはけっこう量はあるのだが、大半がマンガの本。一般書のコーナーもそれなりに数はあるのだが、肝心な自然科学関係の本はほとんど無かった。文学・歴史関係がほとんどを占め、価格も定価の半額程度と安いといえるほどのものではない。新書や文庫も新古書店のように100円均一のコーナーは無く、最低でも200円という売らんかな価格。ここでは何も買わずに次の新古書店へ向かった。

 太田市内では2軒の新古書店を回り、文庫や新書などを買い求めた。ここで別役実別役実評論集・言葉への戦術』(烏書房)をゲットした。クロース装タイトバックのしっかりした装丁。1972年の出版だから、かれこれ40年余り前の本だ。なんとも懐かしい。

  続いて伊勢崎市の新古書店へ。友人が割引券をくれたのでロハのような値段で文庫本などが買えた。さらに足を延ばして高崎へ。メーンストリートの外れにある老舗の古本屋さんに立ち寄った。店先の廉価本(100円均一)の箱を眺めていると、またまた見覚えのある懐かしい著者の本が目に飛び込んできた。務台理作『思索と観察』(勁草書房)。四六判・クロース装ビニールカバー・箱入り。

 2012年6月20日に「務台理作と再び出会う」のタイトルで紹介した哲学者・務台理作の本だ。エッセー集だが、606ページと、読み応えがありそうな本である。手にとって目次をみると、哲学と私、時代と人物、平和と思想、自然と人生・詩歌とあり、研究生活や師の西田幾多郎の哲学、ヒューマニズム、故郷の信州の思い出など、私にとってはとても興味深い話が盛り込まれている。

 6月20日のブログで人となりについては簡単に触れたので、ここでは務台の代表的な著作を紹介する。『近代日本 哲学思想家辞典』(東京書籍)によると、主な著作は次の通りである。

 『ヘーゲル研究』 弘文堂(1935)
 『フィヒテ』 大教育家文庫 岩波書店(1938)
 『社会存在論』 弘文堂(1939)
 『表現と論理』 弘文堂(1940)
 『現象学研究』 弘文堂(1940)
 『場所の論理学』 弘文堂(1944)
 『文化と宗教』 弘文堂(1947)
 『西田哲学』 アテネ文庫 弘文堂(1949)
 『第三ヒウマニズムと平和』 培風館(1951)
 『科学・倫理・宗教』 培風館(1955)
 『哲学概論』 岩波書店(1958)
 『人間と倫理』 大明堂(1960)
 『現代倫理思想の研究』 未来社(1961)
 『現代のヒューマニズム岩波新書(1961)
 『幸福の探求』 講談社現代新書(1964)
 『思索と観察』 勁草書房(1968)
 『哲学十話』 講談社学術文庫(1976)
 
 たぶんこれらのほとんどが品切れ・重版未定、つまり絶版状態だと思われるので、興味がある方には『務台理作著作集』(全9巻)こぶし書房 をお薦めする。

 務台理作を理解するためのキーワードは、ヘーゲル哲学、ベルグソン現象学西田幾多郎、禅の研究、第三ヒューマニズム。いずれもかなり難解といえば難解である。務台は晩年、独自の第三ヒューマニズムの立場から西田哲学を乗り越えようとした。が、この思想的立場を深く考察したものはいまだにいないのではないかと思われる。

 というわけで、今回のツアーの掘り出し物は務台理作『思索と観察』。年代的にも、ほとんど最後の著作(エッセー集)といっていいのではないか。タイトルの横に小さく「若い人々のために―」と添えてある。

 気持ちだけでも○○年前の青春時代にワープして、ゆっくりと読んでみたい一冊だ。

 PS : お昼のことを書き忘れたので、ここで少し触れておく。毎度毎度の回転すしはちょっと飽きてきたので、今回私はハムとチーズのサンドイッチを持っていった。まあ行動食のように適当な時間に野菜ジュースやビール(私は助手席なので友人には悪いが昼間から飲めるのだ)とともにおいしくいただいた。そんな私の食行動に反発するかのように、やはり回転すしに食傷気味だった友人は、お昼にステーキ○のランチセットを食べたようだ。「半年ぶりにステーキを食った(この言葉はちょっと怪しい)。ポタージュは3杯お代わりしたよ(これは本当だろう)」と、満足そうな友人。年甲斐もなく肉好きな質なのである。