正造さんと原子力






 



 

 




 

 
 
 京都大学原子炉実験所助教小出裕章さん(63)の講演会「正造さんと原子力」が9月29日、佐野市文化会館で開かれた。東京電力福島第一原子力発電所の過酷事故を受けて、責任の所在を追及・批判したうえで、今、われわれの生き方が問われていると、改めて原発の危険性を訴えた。

 講演は田中正造没後100年記念事業「アースデー田中正造」の一環。小出さんは1949年生まれ。1974年、東北大学大学院工学研究科修士課程修了。学部時代に女川の反原発集会に参加したのを機に原発を止めさせるための研究を決意したという。専門は放射線計測、原子力安全。講演会には約800人が詰めかけた。

 田中正造足尾鉱毒事件

  日本の公害の原点である足尾鉱毒事件に半生をささげた田中正造を敬愛しているという小出さんは「正造さんが逝ってしまって、来年で100年になります。その間、日本では四大公害水俣病新潟水俣病四日市ぜんそくイタイイタイ病)を始め、たくさんの悲惨な公害が発生しました。昨年にはついに福島第一原子力発電所の事故が起きてしまいました」などと公害の原点から福島原発事故までの歴史を概観。このうち足尾鉱毒事件では「富国強兵の時代に外貨を稼ぐために、足尾では掘り出した銅はほとんどが海外に売られていました。鉱毒のためにすぐに近くの森林が枯れました。鉱さいが渡良瀬川に流れ込んで魚が死にました。鉱毒を含んだ水が田畑にも流れ込んで人間にも被害が及びました」と、正造の書きとめた資料や図表などをスライドで示しながら当時の惨状と正造の国会での戦いなどを振り返った。

 東電福島第一原発事故の本当の被害

  東電福島第一原発事故で「(放射能の拡散経路は)まず北風で浜通りを南下して茨城から一端海洋に出てから再び内陸部の霞ヶ浦周辺に降り注いだ。その後、南風で北に戻り更に北風で栃木、群馬の山岳部を中心に降り注いだ」などとしたうえで「途方もないことが起きている。日本の国が倒産しても償えない被害が起きている」「国民が法律を破ると国家は処罰する。それなら法律を守るのは国家の最低限の義務であろう。日本では一般人は年間1ミリシーベルト以上の被曝をしてはいけないし、させてはいけないという法律がある。放射線管理区域から1平方メートル当たり4万ベクレルを超えて放射能で汚れたものを管理区域外に持ち出してはならないという法律もあった。が、政府は事故が起きたら、それらをすぐに反故にした。法律を破りながら誰も罰せられない。これでも日本は法治国家といえるのか。福島原発事故を引き起こした最大の犯罪者は政府だ」「(原発事故による放射能汚染で)失われる土地、強いられる被曝、崩壊する産業・生活。恐怖は持続できず(考え方の違いから)住民たちが分断している。われわれは放射能で汚染された世界で生きるしかない」などと政府の欺瞞的態度と現実社会の悲惨な実態とを提示した。

 過疎地に押し付けられてきた原発

  「現在の標準的な100万キロワット級の原発1基から1年間に1トンの死の灰が生まれる。これは広島原爆の1000倍に当たる」と膨大に生みだされる放射性廃棄物の問題点を指摘。原子炉立地審査指針では、原子炉の周囲は、原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること。原子炉からある距離の範囲内であって、非居住区域の外側の地帯は、低人口地帯であること。原子炉敷地は、人口密集地帯からある距離だけ離れていること―とされているとして、原発、核燃施設がこれまで過疎地に押し付けられてきた背景を説明した。

 子どもを守る仕組みをつくることが必要

 「(核燃料の)ウラン1トンを鉱山から掘り出すために200万トンの鉱さいを周辺にぶちまけている。膨大な核廃棄物です。日本は海外からウランを買って発電して、海外にゴミを捨てている。(日本の原発では)これまでに広島原爆120万発分の死の灰を造ってきた。(この核廃棄物を)どうしていいか未だに分からない。原発はトイレの無いマンションにたとえられるが、事故が無くても原発は悲惨。私たちもそれを許してきてしまった」「除染は残念ながらできない。今ここにあるものを他の場所へ移すことしかできない。私はこれを移染と呼んでいる」「1キログラム当たり100ベクレル以下の放射線量は安全と言っているが、放射性物質はどんなに微量でも危険。子どもを被爆から守ることが必要です。(放射能で汚染された土壌や瓦礫などは)東電の所有物として福島第一原発に戻し、東電にとことん責任を取らせることが必要。責任の無いところに放射性物質を持っていってはいけない。すべての核廃棄物は東電に持っていくべきだ」。小出さんは栃木県矢板市に計画が持ち上がった放射性廃棄物処分場の問題にも触れ「一度押しつけられたらおしまい。最終処分場になってしまう」と警鐘を促した。

 汚染された大地でどう生きていくか

  「真の文明は山を荒さず、川を荒さず。対立、戦うべし。政府の存立する間は政府と戦うべし。敵国襲い来たら戦うべし。人権入さば戦うべし。その戦うに道あり。腕力殺戮をもってせると、天理によって広く教えて勝つものとの二の大別あり。予はこの天理によりて戦うものにて、斃れてもやまざるは我が道なり」。小出さんは正造の魂の言葉を引用し「足尾鉱毒で始まり、四大公害を経て、そしてそして福島原発事故を貫いているものは、国を豊かにするという思想。そのもとで企業を保護し、住民は切り捨てるという構図です。しかし、そうしてできた国は本当に豊かといえるのかどうか、今、私たちが問われている」と訴えた。

 PS:当日は全国紙などが取材に来ていたが、地元紙と一部の全国紙はこの講演会を翌日の紙面には掲載しなかった。ある程度、新聞各紙の報道姿勢が分かった。