梅雨明けに思わぬ発見!

 











 





 

 関東甲信地方に梅雨が明けた17日、「大金クジラ」の化石発見地を訪ねた。栃木県那須烏山市の県道10号を車で西進していると「600メートル先 大金クジラ発見地」の看板が飛び込んできた。化石が発見された場所は通称・烏山街道を縦断する荒川橋の周辺らしい。早速、車で荒川の川原に下りてみたが発掘現場は特定できなかった。しかし、そこには青々としたこれから美味しくなるであろう実がたわわに生っていた。

 「大金クジラ」の化石は、1978年から翌年にかけて当時の南那須町高瀬地内で新道工事の際に見つかった。1500万年前のヒゲクジラ類のもので一級河川・荒川の荒川層群大金層の地層から発見された。凝灰岩と砂岩が互層した地層で、ホタテガイに近いムカシチサラガイやザルガイの類、ダイオウシラトリなどの貝化石が産出している。山国の栃木県も太古の昔は東半分までが海だったようだ。

 そんな太古の海洋ロマンが感じられるかと現場を見て回ったが、年々浸食されていく河岸段丘に往時の面影を垣間見るだけだった。が、ここは那珂川と並んでアユ釣り・アユ漁のメッカ。川原には釣り船が一艘置かれていた。たぶん投網の際に漕ぎ出す船なのだろう。船底が平らでややスリムな4〜5メートルほどの船体だった。

 その船のそばに青い実をたくさんつけた樹木を発見。よくよく見るとそれは落葉高木のオニグルミだった。胸高直径20センチぐらいの幹で垂れ下がる枝のそこかしこでたわわに実が付いていた。オニグルミは九州から北海道まで広く分布。主に山間の川沿いで良くみられる。種子は食用だが、殻が厚めで非常に固い。クルミ属で自生するものには他にヒメグルミがある。

 クルミはリスやネズミの食料として重要である。クルミの種子サイズが次世代へ遺伝する形質であるならば、地域個体群ごとに種子サイズが異なることが予想される。つまり、ニホンリスが多い地域ではオニグルミ種子は大型であるはずだし、ニホンリスがいないがアカネズミがいて、それが種子散布者となっている地域では小型になるだろう。種子食者として進化してきたリス類は種子のサイズや形態にある方向の選択をかけている可能性がある(田村典子『リスの生態学』)。

 つまり、オニグルミとニホンリスとの関係は、絶妙なバランスで成り立っている。オニグルミが減っていけば、ニホンリスは食べ方を学習できないし、そうなるとオニグルミは種子散布されなくなり、更新しにくくなる。日本各地で人間の利用によって、川沿いの植生環境は大きく変化した。オニグルミなどの河畔林が維持されなくなれば、ニホンリスの餌場は失われ、ニホンリスの生息も危うくなる。それと同時に、オニグルミ個体群も危機をむかえることになるだろう(同)。

 前回紹介した田村さんの本の内容がとても重要な生態学的な知見を含んでいるので長々と引用させていただいた。私が荒川河畔でみたオニグルミの木は広い川原に一本だけだった。ここには他に広葉樹などは分布しておらず、ニホンリスが生息しているとはとても思えない。どうして一本だけオニグルミの木が生えていたのかが良く分からない。たまたま大型の鳥が種子を運んだのか、あるいは人為的に種子が持ち込まれたものなのか、まったく知る由もない。不思議な光景だった。

 空をみると、小さな雲片が集まってできるひつじ雲(高積雲)がかかり、湧き上がるような積雲とのコントラストが真夏の空を演出していた。栃木県宇都宮市では午前11時に気温30℃を超え、この日は最高気温36.4℃の猛暑を記録した。私の見た河畔での光景はひょっとすると白昼夢だったのだろうか…。いや、自然生態系の近未来の縮図だったのかもしれない。