FWお勧めの一冊

 太古の昔から森に生き続けてきた樹上性のリス類は、齧歯類の中で保守的な形態を残す「生きた化石」と考えられている。リスが地球上に出現した時代は、中生代に栄えた恐竜が絶滅し、原始的な哺乳類が繁栄を始めた新生代の初期(暁新世)にさかのぼる。暁新世には森を構成する植物も現代と近い様相になったと考えられている。リスはこのころから森とともに歩み始めたのだ―。

 とても愛らしいいで立ちで、めまぐるしく、しなやかに森の中を遊動するリスがそんなにも古の時代から森で暮らしていたのかと思うと、なんと逞しい生き物なのだろうと素直に感動を覚える。そんなセンス・オブ・ワンダーを久しぶりに味わったのが田村典子『リスの生態学』(東京大学出版会、2011)だ。

 ネズミ目リス科は現在、50属約260種に分類され、両極地とオーストラリア大陸を除く全世界に分布している。このうち樹上生活をする昼行性のいわゆる樹上性リス類は23属123種あり、リス類全体の47%を占めている。残りが半地上生活・地上生活に適応したリス類(同39%)、滑空性リス類(同14%)であるという。

 日本では、北海道に生息するキタリス、シマリス、エゾモモンガと本州・四国・九州などに生息するニホンリス、ムササビ、ヤマネ、ホンドモモンガの7種が分布している。そのほか外来種として伊豆大島や神奈川県東部で野生化しているクリハラリス(タイワンリス)、チョウセンシマリスがいる。

 埼玉県狭山丘陵では本州では分布していないキタリスが確認されている。キタリスとニホンリスは遺伝的に近縁であるため、野生化したキタリスの分布が広がれば遺伝子の撹乱が起こりえるとされ、日本固有種であるニホンリスの存続が危ぶまれるという。

 『リスの生態学』は、社会構造、採食生態(貯食)、生物間相互作用(植物とリスの共進化)、保全生態学などで構成。リスの生態全般について多くの情報を知ることができる。しかも、これらの研究情報が著者の学部、修士・博士課程とオーバーラップしながら深まっていくので研究史として読むことができる。具体的な研究法も学べてとても興味深い。

 ニホンリスがオニグルミを貯食することの生態学的意味が、やがてはリスと森とのダイナミックな関係にまで発展していく論述にはとてもインスパイアーさせられた。フィールド・ワークを生業にしている人にはお勧めの一冊だ。