世紀のスキャンダル!!

 理化学研究所小保方晴子ユニットリーダー(30)らが今年1月末に英科学誌natureに発表したSTAP細胞論文の不正問題について、理研は5月8日、小保方氏の不服申し立てを退けて不正行為の認定を確定させ、論文の取り下げを勧告した(5/9 新聞各紙ほか)。

 このニュースはnature news blog 記事(5/8)でも取り上げられた。理研調査委員会が公表した審査報告書で明らかになった新事実も盛り込まれている。小保方氏が2012年4月に最初にnatureにSTAP細胞論文を投稿して不採択となった後、同年7月に米科学誌Scienceに修正版論文を投稿した際、査読者から注意を受けていた、という。

 具体的には、今年のnature論文で不正行為が認定された遺伝子解析画像について、Scienceの査読者は複数の画像を1枚にまとめる際には白線を入れて区別するよう注意していた。しかし、小保方氏はScienceに不採択になった後、理研発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長に論文を書き直してもらってnatureに再投稿した際、注意に従っておらず、理研調査委が故意の不正行為と認定する有力な根拠となった(5/9 時事ドットコム)、という。

 この画像の切り張りについては、調査委が指摘するように「データが真正であるかがポイント。小保方氏は違うものを一つの物差しで実験しているようにみせ、査読者を誤解させている」(5/8 会見要旨)。が、小保方氏は4月9日の論文の不備について謝罪した記者会見では画像の切り張りは認めたものの、「画像を見やすくするために行った。論文掲載上の問題で、研究で得られる結果は変わらない」と「改ざん」には当たらないと反論していたが、「私が不勉強で自己流でやったこと。反省している。申し訳ございません」と理屈ではなく情緒的説明に始終。全く説得力に欠ける弁明だった。こんな説明では到底調査委を納得させることはできない。

 natureの論文審査部門は今年3月、独自にSTAP細胞論文を調査しており、小保方氏らが論文撤回に反対しても論文を取り消す可能性があることを明らかにしている。

 STAP細胞の万能性を示した画像については、nature論文に掲載された写真のうち4枚が、小保方氏が2011年に書いた博士論文の写真と酷似しているとネット上で指摘された。natureではSTAP細胞が様々な細胞に変化したことを示す写真だが、博士論文の写真は骨髄の細胞由来として使われていた。これに対して同会見で小保方氏は「データの整理が不十分で取り違えた」と弁明していた。これに対して審査結果の会見では「論文に記載されている実験条件が異なり「ねつ造」であることは明らか。(小保方氏は)実験条件の違いを認識しながらデータを論文に使っていた。審査の結果は最終報告と同一で、再調査をする必要は無い」と断定した。尤もな結論だと思う。しかし、調査委委員長の辞任、調査委員らの論文不正疑惑など理研内部の不祥事が次々に発覚したのには恐れ入った。これはどうやら小保方氏だけの問題ではなく根は相当深そうだ。科学研究の信頼性は相当揺らいできたのは間違いない。問題はおそらく氷山の一角なのだろう。

 それにしても、私がネットで調べて大変驚いたのは、小保方氏の博士論文「三胚葉由来組織に共通した万能性体性幹細胞の探索」だ。100ページ余りのそのD論の1.BACKGROUNDの20ページ余が米NIHがネットで公開しているStem Cell Basics:Introductionのまる写し(コピー&ペースト)だったことだ。小保方氏は「引用符を入れるのを忘れた」などとしているようだが、200〜300文字程度ならなんていうことは無いが、ひとケタ多すぎる引用は前代未聞。D論全体の5分の1が引用では論文として通るわけがないと常識的に思うのだが、小保方氏はどういうつもりでこんなに長く引用しておきながら引用符を忘れたなどと嘯いていられるのか、その神経が理解しがたい。

 早稲田大学大学院 先進理工学研究科では、2011年2月に小保方氏が同研究科に提出したD論に「画像の使い回し」などが指摘されている問題で、内部調査から外部の専門家を加えた本格調査の方針を明らかにしたが(新聞各社の報道)、現時点では結果は公表されていない。早急に結論を出してほしいものだ。D論審査の実態が絡む問題で院生らの注目度が高いと思う。小保方氏の博士論文審査報告書によると、D論の当時の審査員(主査)は、常田聡・早大教授、武岡真司・同、大和雅之・東京女子医大教授、Charles A.Vacanti・ハーバード大教授(MD)の4人。

 小保方氏らのnature論文は「不正」と認定し、「再調査は不要」と判断した理研。今後は懲戒委員会を設置、審査を行い小保方氏らの処分の決定を行うものとみられるが、小保方氏らの側から地位確認等の法的措置を求める動きも考えられる。審査には1ヵ月程度かかるとされている。

 一方、理研は現在、独自にSTAP細胞の再現実験に取り組んでいるが、小保方氏らがnatureに発表した手法でSTAP細胞の作製に取り組んでいた香港中文大の李嘉豪教授の研究グループは8日、「この方法ではSTAP細胞は作製できなかった」とする論文を、英オンライン科学誌に発表した(5/9 読売新聞)。

 こうした一連のマスコミ報道などから、どうやら「世紀の大発見」が「世紀のスキャンダル」に発展しているように思えてならない。だが、小保方氏は「STAP細胞は200回超作製している」(4/9 会見)と強気の構えで、nature論文の撤回を否定している。指導的立場にあった理研笹井芳樹氏も論文取り下げに同意する一方、「STAPは有望で合理的な仮説と考える」(4/16 会見)と擁護ともとれる発言が気になる。

 STAP細胞は本当に存在するのかどうかはいまだ混沌としている。

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 ※ 本題とは直接関係ないが、問題発覚後の記者会見でのマスコミ各社の態度というか、STAP細胞にまつわる質問で、いわゆる専門家らに対する記者らの姿勢が気になった。

 たとえば、天下のA新聞の記者は、どこの大学を出たのかは知らないが、たぶん修士や博士課程修了ではなく学部卒で記者になったのだろう。論文執筆から論文誌に掲載されるまでのプロセスがてんで分かってないで頓珍漢な質問をしていたのには笑ってしまった。いずれの会見もちょっとハードルが高いのだ。

 STAP細胞はあるのかないのかという、調査委のミッションを超える質問を多くの記者たちが毎回のごとくしてしまって顰蹙を買ったり、一夜付けの泥縄式で身に付けた細胞生物学の理屈を振りまわしながら独りよがりの質問をしつこく繰り返したり。挙句の果てには(一応、その道の専門家たち)を見下したかのように上から説教調で迫る中年記者までいた。まったく「多士済済」もいいとこだ。会見の場は、まるでやんちゃな学部1年生が、その道の権威に対して、生半可な知識で必死に対抗しているようにしか見えなかったのは私だけだろうか。

 一方、一応はその道の専門家たちもやはり怪しい研究者であることも明るみにされたのは一つの成果だった。学会という権威主義の牙城もその裾野はかなり広いことが改めて認識させられた。学会員も玉石混交。

 科学の普遍妥当性とはいうものの、所詮科学の世界もその時代の文化の範疇に属している。サイエンスといえども実は至って人間的な営みなのでしょうね。特に日本人にとっては…。